GRADOと巡る音の旅





私は子供の頃から音楽を聴くことに慣れ親しんできましたが、オーディオには長らく無頓着でした。音楽と音の関係に興味を持ち、できる範囲でオーディオに手間暇をかけるようになってからも、感覚だけを頼りに音と向きあってきました。数理的思考にもっぱら疎いこともあって、だいぶ遠回りをしているような気もしますが、その分、色々な気づきもあり、今ではそれも悪くはなかったなと思っています。



尊敬するDJの小林径さんが、「DJほど多くの異なる環境で音楽を再生している者は他にいない」と、話してくれたことがあります。私はこの言葉を、日々繰り返される「聴覚と感覚の鍛錬」と受け止め、とても励まされています。音楽を聴く環境が異なれば、聞こえる音も違います。同じ環境でも、同じ音は二度と聞こえません。聴いている私たちも日々、変わり続けています。



DJの活動を通じて、ある種享楽的な音響体験を積み重ねていくなかで、GRADOのフォノ・カートリッジに出会いました。今からもう15年以上前のことです。それまでは音圧や耐久性を重視したDJ向けの強固なカートリッジを使っていましたが、今も毎月続けている東京八王子SHeLTeRでのパーティ<Sci-Fi>でリスニング的なことをやりはじめてから、DJ向けカートリッジの響きに物足りなさを感じるようになっていきました。

カートリッジを新調しようと思い、あてもなく訪れた秋葉原のオーディオ・ショップで目にとまったのが、GRADOでした。技術的な性能を理解することは出来ませんでしたが、当時のGRADOの最下位モデル(Prestige Blue1)でも10Hz〜50,000Hzという周波数特性を持っていることに、単純に興味をそそられました。



今もそうかも知れませんが、当時はオーディオ・ショップや家電量販店でカートリッジの試聴や聴き比べをさせてくれるところはほとんどなく、いちかばちか買ってみる以外に音を確かめる方法はありませんでした(現在は、GRADOの輸入代理店ナイコムさんがデモ機の貸し出しを行なっています)。懐に余裕はありませんでしたが、当時使っていたDJ向けのカートリッジと同価格帯のPrestige Silver(現在は販売終了)を思い切って購入しました。

Technicsの純正ヘッドシェルと、よくわからない汎用のリード線にPrestige Silverを取り付けてレコードを聴いてみました。それまで使っていたDJ向けのカートリッジと比べてパワーはなくなりましたが、微細な音の粒子が心地良い余韻を残しながら立体的に響く中高域の音像は、格別な気持ち良さでした。



SHeLTeRのレギュラー・パーティ<Sci-Fi>の相方、MOROI君もGRADOの音を気に入り、DJで使うためにPrestige Goldをお互いに1個ずつ購入しました。山本音響工芸の黒檀製ヘッドシェルに同メーカーのリード線を接続して、長らく愛用していました。その後、ウッド・ボディを搭載したReference Platinumにアップグレードし、そして、MOROI君がこの世を去るまでの最後の1年間は、Timbre Master3の低出力モデルを使用していました。

 

クラウト・ロック、電子音楽、アンビエント、ECMを筆頭とするコンテンポラリー・ジャズ、実験音楽、現代音楽、現代邦楽・・・、私の音楽変遷は常に、GRADOとともにありました。世の中には素晴らしい音を奏でるカートリッジがたくさんあると思いますが、たまたま出会ったGRADOは私にとって、音楽、そしてレコードに刻まれた音の響きをより深く理解するための指針を示してくれる存在になりました。



GRADOの魅力を最大限に引き出すために、ヘッドシェルやリード線の組み合わせをなるべくお金をかけずにいろいろ試してきましたが、それはまさに茨の道を行くようなもので、終わりのない旅のはじまりでもありました。道に迷うことも多々ありますが、そんなときにこそ、見知らぬ美しい風景に出会うものです。もっと近道があるのかも知れませんが、「気持ち良い音」をひたすらに追求する果てしなき旅は、遠回りをしながら今も続いています。







GRADO Labs.について




GRADO Labs.は1953年にジョセフ・グラドと兄のジョンによって設立されて以降、家族が経営を引き継ぎながら現在まで良質なフォノ・カートリッジやヘッドフォンを製造している、アメリカ・ニューヨークのオーディオ・メーカーです。すべての製品はブルックリンの工場で手作業で生産されています。創業者のジョセフ・グラドはムービング・コイル(MC)方式によるステレオ・カートリッジを発明したことで知られていますが、2000年代初頭にはカートリッジ・ラインを再設計し、磁気回路と電気回路の共振歪みを事実上排除した独自の技術で、アナログ再生を新たなレベルに引き上げたと言われています。



The Distance』というウェブサイトに、GRADOの歴史や製品開発のモットーなど興味深い内容と工場の写真などが掲載された記事が公開されています。ぜひご一読ください。



High Fidelity
Three generations of Grados have pursued the family passion of delivering superior sound.




© The Distance / photography by Michael Berger


主観的な表現になりますが、GRADOのカートリッジの特徴として全シリーズに共通するのが、低域から高域までバランス良く繊細な粒立ちと、まるで音を視覚化したかのように目の前に広がる立体的な音像表現です。音に味付けはなく、非常に音楽的な響きです。モデルがランクアップするにつれ、音の粒子は微細さと鮮やかさを増し、心地良い余韻を響かせながら、音場がよりワイドに、立体的に広がっていくイメージです。レコードに刻まれた音を細やかに、視覚的に響かせたい方にお薦めしたいカートリッジです。



現在、フォノ・カートリッジのラインナップは『Prestige』『Timbre』『Lineage』の3シリーズが展開されています。当店では『Prestige』シリーズと『Timbre』シリーズを取り扱っています。PrestigeシリーズはGreen3とGold3、TimbreシリーズはOpus3(高出力)、Platinum3(高出力/低出力)、Master3(低出力)が店頭で試聴可能です。



GRADOをすでにお持ちのお客様で音質改善をご検討の際は、お気軽にご相談ください。リード線を豊富に取り扱っている東京高円寺のEAD RECORDのご紹介もいたします。



EAD RECORD


東京都杉並区高円寺南4丁目28−13

https://eadrecord.theshop.jp


オススメのGRADO

現在の最下位機種ながら、10Hz-50,000Hzというワイドな周波数特性を持ったエントリー・モデル。艶やかで細やかな音の粒子、全シリーズに共通するワイドで立体的な空間表現性を体験できます。 GRADO唯一のDJ向けモデルで、バックキューも可能です。Prestigeシリーズの中位機種Red3と同等のスペックで、リスニング用としても十二分に効果を発揮するユーザー・フレンドリーなモデルです。
「Timbre」シリーズのエントリー・モデルで、唯一、メイプル材が使用されています。軽快で耳障りの良いサウンドが印象的です。フォノ・アンプやMC対応のコントロール・アンプをお持ちの方には、低出力モデルもオススメです。 ボディにオーストラリアのジャラ材が使用されたモデルです。このモデルからサウンドステージが格段に広がります。フォノ・アンプやMC対応のコントロール・アンプをお持ちの方には、低出力モデルもオススメです。
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